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東京高等裁判所 平成3年(行コ)6号 判決

控訴人

市川瓦斯株式会社

右代表者代表取締役

青山末吉

控訴人

有限会社 末吉

右代表者代表取締役

鈴木仁

控訴人ら訴訟代理人弁護士

中村雅男

吉野徹

佐藤公輝

被控訴人

関東通商産業局長

合田宏四郎

右指定代理人

笠原嘉人

外五名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人らに対して昭和六一年五月七日付けでした各簡易ガス事業不許可処分をいずれも取り消す。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

二  当事者の主張

当事者の主張は、控訴人らの主張を次に加えるほか、原判決事実摘示のとおりである。なお、法令、関係者その他の略称は、原判決の例による。

(控訴人らの主張)

本件各処分の根拠である法三七条の四第一項四号の規定を被控訴人の主張のとおり解釈すると、右規定は、憲法二二条一項の職業選択の自由及び憲法一四条の法の下の平等に反するというべきである。

三 証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1及び2のとおり、控訴人らが本件各申請をしたのに対し、被控訴人が本件各不許可処分をし、控訴人らは審査請求をしたが、棄却の裁決を受けたことは、当事者間に争いがない。

二本件に係る事実関係

当事者間に争いのない事実、証拠(〈書証番号略〉、証人守屋智夫、同宇田川進の各証言、控訴人市川瓦斯代表者尋問の結果)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  本件地区(稲荷木二丁目地区)は、京葉瓦斯の供給地域であるところ、本件地区及びその周辺の地域的特性は、原判決事実摘示の被控訴人の主張1の(二)の(1)の②のとおりである。

2  京葉瓦斯は、一般ガス事業者であるが、その前身時代の大正一五年にガス供給事業の許可を受け、昭和三年に現在の市川市へガスの供給を開始した。昭和二五年には、本件地区が京葉瓦斯の供給地区に編入された。

3  控訴人市川瓦斯の代表者の青山末吉は、昭和三〇年に有限会社青山礦油店を設立し(本店・市川市稲荷木一丁目)、当初はガソリンスタンドにおけるガソリンの供給を主たる業務としていたが、次第にプロパンガスの販売等も行うようになった。

昭和三五年には、同社のプロパンガス販売部門を独立させ、京葉プロパン販売有限会社を設立し、昭和四三年四月、有限会社市川瓦斯と商号変更し、さらに昭和六一年六月に同社を組織変更して控訴人市川瓦斯とした。

控訴人市川瓦斯は、当初はガスボンベによってガスを供給していたが、昭和四二年ころから順次小規模導管を敷設し、これによりガスを供給するようになった。そして、昭和四五年にガス事業法が改正され、簡易ガス事業が許可制となったが、控訴人市川瓦斯は、同年一二月一一日、経過措置により、法三七条の二の許可を受けたものとみなされ、簡易ガス事業を営むようになった。

他方、青山礦油店は、昭和五一年六月に控訴人末吉と商号変更した。

4  京葉瓦斯は、昭和四三年に初めて本件地区に導管を敷設した。すなわち、本件地区と現在の稲荷木三丁目地区との境の道路等に低圧導管四九九メートルを敷設した。低圧導管は、その周辺の消費者に対する供給を可能にするものである。なお、右導管は本件供給地点とは離れた位置に敷設されているが、本件供給地点へのガス供給がおよそ不可能なものであったとは認められない。

次いで、京葉瓦斯は、本件地区を含む市川市南側と浦安市全域へのガス供給能力の増強を図るため、昭和四八年に、現在の稲荷木一丁目から本件地区を経由して浦安地区まで中圧(A)輸送幹線と称する中圧導管を敷設した。中圧導管は、ガス輸送を目的としており、これから直接に一般の消費者にガスを供給できるものではないが、ここから分岐して一般の需要者に供給することも可能なものである。

なお、京葉瓦斯は、同年に本件地区に若干の低圧導管を敷設した。

5  他方、控訴人らの導管敷設状況についてみるに、本件の控訴人末吉の申請に係る供給地点については、控訴人市川瓦斯が昭和五〇年七月に内径八〇ミリメートルの導管二八〇メートルを敷設したのを最初として、昭和五一年一〇月、昭和五二年一月、同年二月、同年三月(内径一〇〇ミリメートルのもの)と順次延長し、昭和五八年九月にもさらに敷設した。そして、後記の経緯で、昭和五八年一〇月に控訴人市川瓦斯から控訴人末吉にこれらの導管網が譲渡された。

また、控訴人市川瓦斯の申請に係る供給地点に関しては、控訴人市川瓦斯が昭和五三年三月に内径八〇ミリメートルの導管を敷設したのを最初として、昭和五五年八月にこれを延長し、昭和五八年七月にも順次導管を敷設した。

6  控訴人市川瓦斯については、同社が昭和四五年に簡易ガス事業の許可を得た当初から、京葉瓦斯との間で二重配管の問題があり、両者の間で紛争が絶えなかったので、被控訴人は、昭和五二年に地方ガス調整協議会の承認を得て処理方針のメルクマールを定め、これに基づく処理を行ってきたが(右のメルクマールでは、本件各供給地点群の所在地は、簡易ガスの専用配管区域や一般ガスとの二重配管区域とはされていない。)、昭和五八年に至り、控訴人市川瓦斯が右のメルクマールを越えた地区で許可を受けることなく供給地点を増やし、本件地区には無許可で一三五地点に小規模導管でガスを供給していることが判明したので、被控訴人は、同年七月及び八月に控訴人市川瓦斯に対し調整のための指導案を示したが、控訴人市川瓦斯は、これを拒否した。そこで、被控訴人は、同年九月、控訴人市川瓦斯に対し、「本件地区等の貴社の簡易ガス事業については、法三七条の二の規定に違反するものであり、極めて遺憾である。今後かかる行為を行わないよう厳重に注意する。ついては、早急にこの違法状態を解消するよう措置するとともに、貴社の全事業について、ガス事業法に適合して遂行されているか否かを総点検し報告されたい。」と通知を出した。

これを受けて、控訴人市川瓦斯は、同年一〇月、導管を切断し、前記地点のうち六七戸を前記のように控訴人末吉に移譲し、六八戸を東亜燃料工業株式会社に移譲することとして違法状態を解消した。もっとも、東亜燃料工業に移譲することとした分については、結局一部しか移譲せず、移譲したものについても、その後に控訴人市川瓦斯が再移譲を受けた。

7  京葉瓦斯は、昭和五五、六年ころから本件地区において具体的な需要が生じたため、昭和五六年ころ、本件地区に従前に引き続く導管敷設の具体的計画を立てた。しかし、当時、前記のような控訴人市川瓦斯の違法供給の問題があり、被控訴人から、その解消をはかるため、京葉瓦斯も本件地区の開発をしばらく待つようにとの指導を受けたため、敷設を延期してきた。昭和五八年に至り、前記のように控訴人市川瓦斯の違法供給が解消されたことから、京葉瓦斯は、昭和五八年から本格的な導管敷設にかかり、同年にある程度の低圧導管を敷設し、昭和五九年には、本件地区の宅地造成及び都市化の進展に伴う消費者の増大に対応するため、低圧導管を一二四二メートル敷設し、さらに、昭和六〇年には、ガス供給能力を一層増強するため本件地区の北部において低圧導管を九三八メートル敷設し、ループ化を行った。

これらの導管の敷設は、右認定のように、現実の要請に基づくものであって、既成事実を作出することを目的としたものとはいえない。また、当時、京葉瓦斯と控訴人らとの話合いが行われていたのに、これを無視して京葉瓦斯が工事を強行したとは認めがたい(〈書証番号略〉によっても、右のように認めることは困難である。)。

これらの敷設の結果、昭和六一年二月の本件各申請当時には、京葉瓦斯の本件地区における低圧導管延長は、二八五七メートルとなり、その消費者戸数は一一九戸(普及率約二七パーセント)となった。

その結果、京葉瓦斯は、少なくとも本件各申請の時点においては、本件各申請に係るすべての供給地点についてガス供給の申込みがあれば、これに即応してガスを供給することが可能な導管網を敷設していた。

なお、昭和六〇年当時、京葉瓦斯は、本件地区において定点を定めてガスの供給圧力を測定していたものであり、本件地区における京葉瓦斯のガス供給圧力が低くて消費者から苦情があったとか、京葉瓦斯が供給圧力不足を理由に供給申込みを拒絶したとかの事情は認められない(〈書証番号略〉、証人宇田川進の証言。そして、控訴人らの指摘する〈書証番号略〉によっても、右認定が左右されるものとは考えられない。)。

8  控訴人市川瓦斯は、前記違法状態の解消後も、その申請に係る地点について、昭和五九年一〇月、昭和六〇年二月と順次導管を延長し、本件申請時点においては、内径八〇ミリメートルの導管延長四〇二メートル、内径五〇ミリメートルの導管延長七六メートル、総延長四七八メートルの導管網を敷設していた。

また、控訴人末吉は、控訴人市川瓦斯から譲渡を受けたことにより、本件申請時点において、内径一〇〇ミリメートルの導管延長三一六メートル、内径八〇ミリメートルの導管延長七四〇メートル、内径五〇ミリメートルの導管延長142.5メートル、総延長1198.5メートルの導管網を有していた。

これらの導管網により、控訴人市川瓦斯は、同社の本件供給地点のうち六九地点に導管により液化石油ガスを供給し、その余の二五地点についてはガスボンベによって同ガスを供給している。また、控訴人末吉は、同社の本件供給地点のうち六九地点に導管により液化石油ガスを供給し、その余の九地点についてガスボンベによって同ガスを供給している。そして、本件各申請が許可された場合には、両社とも、既存の導管と現在ガスボンベで供給している地点とを供給管で連結すれば足り、それ以上に新たな導管を敷設する必要はない。

9  そして、本件各申請の時点において、控訴人市川瓦斯の敷設した導管四七八メートルのうち少なくとも約六割、また、控訴人末吉の敷設した導管1198.5メートルのうち少なくとも約八割は、京葉瓦斯の導管と同じ道路の下に並行して敷設されている。このような二重配管のうち大部分は、控訴人らの導管が既に敷設してあるところに京葉瓦斯が並行して導管を敷設したために生じたものであるが、一部は、京葉ガスの導管が既に敷設されているところに控訴人らが並行して導管を敷設したために生じたものである。

10  以上の導管敷設状況を総合してみると、本件供給地点ないしその近傍にガスの供給を可能にする導管を先に敷設したのは概ね控訴人市川瓦斯であるが、一部は先に京葉瓦斯が敷設したとろもあり、本件地区全体でみると、消費者にガスの供給を可能にする導管を最初に敷設したのは京葉瓦斯である。そして、本件供給地点については、昭和五〇年七月に控訴人市川瓦斯が導管の敷設を開始し、その後、控訴人らと京葉瓦斯とが競合しつつ導管を延長してきた結果、本件各申請時には、控訴人らと京葉瓦斯のいずれも、本件供給地点のすべてについてガスを供給することが可能な導管網を有するに至ったものということができる。

控訴人らは、控訴人らが導管網を敷設した後になって、京葉ガスが重複的に導管の敷設をしたと主張するが、これを全面的には肯認することができない(また、京葉瓦斯の昭和五九、六〇年の導管敷設については、昭和五六年に予定されたものが前記の事情で遅れてなされたものである。)。

三本件各申請の法三七条の四第一項四号への適合性について

本件各申請が法三七条の四第一項三号に適合するか否かの判断を措いて、本件各申請が同項四号に適合するかどうかについて検討する。

1  法によるガス事業の規制

法の目的、一般ガス事業と簡易ガス事業の特性、液石法による小規模導管供給事業の規制とその内容、及び一般ガス事業と簡易ガス事業の調整については、概ね原判決事実摘示の被控訴人の主張1(一)の(1)及び(2)のとおりである。

控訴人らの指摘するように、法は、簡易ガス事業の成立を非市街地に限定していないけれども、一般ガス事業と簡易ガス事業のそれぞれの特性にかんがみると、法は、一般的には、市街地ないし市街地化の予想される地域については一般ガス事業を予定し、一般ガス事業の導管網によっては需要に即応することの困難な地域に簡易ガス事業がガスを供給することを予定しているものと考えられ、このことは、法改正に関する国会審議でも同様の立法趣旨が説明されているところであり(〈書証番号略〉)、法三七条の四第一項三号及び四号の規定からも右趣旨を読み取ることができる。

また、弁論の全趣旨によると、市街地においても、一般ガスの供給が不十分な段階でガスボンベによる液化石油ガスの供給事業が行われ、それが次第に発展して、簡易ガス事業となった事例があることがうかがわれるが、法の趣旨が前記のとおりであることは否定できない。

2  法三七条の四第一項四号の趣旨

ガス事業は、導管により使用者にガスを供給する事業であり、ガス発生設備、導管等を要する装置産業として、総資産中に固定資産の占める比率の大きい事業であることは公知の事実である。したがって、一般的には、同一地域において複数のガス事業者が併存することは、重複投資、過剰投資の弊害を発生させることとなり、国民経済的にみて多大の損失となり、事業の安定的発展を阻害するおそれもあり、当該地域の消費者の利益にも合致せず、ガス事業の健全な発展を図るという法の目的を達成できないこととなりかねないところである。

このことは、一般ガス事業者の供給区域内で簡易ガス事業が営まれる場合も基本的には同様であるが、一般ガスの供給区域内であっても、一般ガス事業者の導管が普及していない地域が存在する場合には、その地域において簡易ガス事業を許可することによりガス供給の需要に即応することが消費者の利益に資することもあるので、法は、一般ガス事業者の供給区域内において簡易ガス事業が許可される場合のあることを認めた上で、法三七条の四第一項四号において、簡易ガス事業の開始によりその供給地点についてガス工作物が著しく過剰とならないことを許可の要件として、一般ガス事業と簡易ガス事業の調整を図っているものと解される。

このような法の趣旨に照らすと、同号によりガス工作物が著しく過剰となると判断されるのは、申請に係る簡易ガス事業の供給地点の相当部分についてガス工作物が重複投資となる場合、すなわち、簡易ガス事業の許可申請の時点において、一般ガス事業者が申請に係る供給地点の相当部分について、既にガスを供給し、若しくは需要に即応できる導管を既に敷設している場合であるか、又はそのような導管を敷設していると同視しうる場合であると解される。そして、これを若干具体的に考えるとすれば、概ね原判決事実摘示に係る被控訴人の主張1の(二)の(3)の①のアないしウのようなものであると考えることができる。

3  そこで、このような観点から、本件各申請について検討する。

(一) 京葉瓦斯の導管の敷設状況は、前記認定のとおりであり、少なくとも本件各申請の時点においては、本件各申請に係るすべての供給地点についてガス供給の申込みがあれば、これに即応してガスを供給することが可能な導管網を敷設していたことが認められる。したがって、このような状況において、本件各申請に係る簡易ガス事業が開始されれば、特段の事情のない限り、これにより、その供給地点についてガス工作物が著しく過剰となるというべきである。

(二)  この点につき、控訴人らは、京葉瓦斯の導管は、その供給圧力が低く、消費者から苦情が出たこともあって、申込みに即応できるものではなかったと主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、本件各申請の時点において、本件供給地点付近の京葉瓦斯の供給圧力が特段に低いもので、利用できないものであったとは認められない。

(三)  また、控訴人らは、京葉瓦斯は、本件地区について長期間にわたってガス供給の即応態勢をとらず、控訴人らが導管網を敷設した後に重複的に導管を敷設したのであるから、被控訴人が二重投資を問題にするのであれば、むしろ、本件地区を京葉瓦斯の供給区域から削除して、京葉瓦斯の時機に遅れた導管敷設を許すべきでなかったと主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、控訴人らが導管網を敷設した後になって、京葉瓦斯が重複的に導管の敷設をしたという控訴人らの主張は、これを全面的には肯認することができないのであるから、被控訴人が本件地区を京葉瓦斯の供給区域から削除すべきであったとは必ずしもいえないのであって、控訴人らの右主張は採用できない(そして、前記認定のように、控訴人らは、被控訴人が昭和五二年に地方ガス事業調整協議会の承認を得て定めた処理方針のメルクマールに合致しない形で、導管を敷設してきたものであり、他方、京葉瓦斯は、両社の調整を図ろうとする被控訴人の指導に従って、導管の敷設を留保してきたとのいきさつがあるものである。)。

4  いわゆる「せり上り」について

次に、控訴人らは、本件各申請はいわゆる「せり上り」による許可申請であるから、原則として簡易ガス事業の許可を与えるべきであり、また、本件各申請が許可されても、控訴人らは既存の導管等の設備をそのまま利用するにすぎず、ガス工作物の実体の総量はほとんど変わらないから、全く新たに簡易ガス事業を営む場合と同一視すべきではなく、ガス工作物が著しく過剰にはならないと主張する。

液化石油ガス小規模導管供給事業については、液石法が適用される。液石法は、保安の確保及び取引の適正化という観点から規制を加えるものであり、いわゆる公益事業規制を目的としていない。これに対し、法は、液石法の適用を受ける右小規模導管供給事業のうち、一の団地内におけるガス供給地点の数が七〇以上のものを簡易ガス事業とし(法二条三項)、同事業について一般ガス事業に準じる各種の公益事業規制を加えている(法三七条の二、三七条の七)。これは、小規模導管供給事業であっても、供給地点の数が一定数以上の規模のものである場合には、ガス使用者の利益を保護し、事業の健全な発達を図るとともに、公共の安全を確保するという公益上の要請が強くなるところから、液石法による規制のほかに公益事業としての規制に服せしめることとし、その適用対象となる事業の規模を供給地点数七〇以上のものと法定したものである。

このような建前からすると、法は、三七条の四第一項四号の要件に関しても、設備の過剰投資による弊害が無視できない供給地点数の最小限度を七〇とし、供給地点数が七〇未満の小規模導管供給事業にとどまる限りは、一般ガス事業のガス工作物との間に二重投資が生じても、それを放任し、そこまでは規制を加えないとの立場に立っていると解される。そうであるとすれば、小規模導管供給事業の供給地点数がせり上りにより七〇を超えることになる場合でも、そのときに初めてその状態でガス工作物が過剰にならないかどうかという公益事業適格性が客観的に判断されるのであり、その判断に当たって、せり上りであることが諸般の事情の一として斟酌されることはありうるとしても、それ以上に、小規模導管供給事業としての既設工作物を利用できるから、過剰性は問題にならないとか、あるいは原則として申請を許可すべきであるということはできない。

せり上りの場合に、ガス工作物の過剰性を問題とする余地がなく、原則として許可すべきであるということになれば、法三七条の四第一項四号の規定が無意味となるばかりでなく、とりあえず六九地点まで小規模導管で供給しておいて、次に一点を追加することにより容易に簡易ガス事業を行うことができることになるから、この方法を各所で繰り返すことによって、一般ガス事業の導管網が敷設されている地区において、簡易ガス事業の導管が重複して敷設されることとなり、公益的見地からガス工作物の過剰となるのを避けようとする法の趣旨を没却することとなる。

また、控訴人らは、主張の根拠として、昭和五六年一一月三〇日付け五六公ガ事第一九号資源エネルギー庁公益事業部ガス事業課長通達「公益事業部長通達(五六資公部第二〇七号)に関連する簡易ガス事業関係案件の処理について」(〈書証番号略〉)を挙げるが、同通達は、一般ガス事業の供給区域内において無許可で簡易ガス事業に該当する事業を営んでいるなどの違法行為に対する具体的措置を定めるとともに、その一部で、「一般ガスの既供給区域内での液化石油ガス小規模導管供給事業からのせり上りについては、それが故意の未申請で消費者に大きな不利益を与えたことが明白なもの及び消費者の一般ガスへの転換希望が明確なもの以外のケースの中には、周辺の一般ガス事業の導管の状況や消費者の意向を勘案すれば簡易ガス事業としての許可を与え、むしろガス事業法による公益事業規制を受けさせる方向で指導してもよい場合があるものと考えられる。」としたものであり、せり上りの場合に諸般の事情を考慮して許可を与えてもよい事例があるとしたにとどまるものであって、せり上りの場合にすべて又は原則として許可すべきであるとしたものでないことは明らかである。

そして、さきに認定した本件の事実関係のもとでは、本件各申請がせり上りによるものであることを斟酌してもなお、ガス工作物が著しく過剰となる場合に該当し、許可すべき事例でないとした被控訴人の判断を不合理とすることはできない。

5  控訴人らは、また、以上のような法三七条の四第一項四号適合性の判断は、消費者の選択の自由を損なうことになると主張するところ、公益的見地からガス工作物が著しく過剰となる小規模導管供給事業に簡易ガス事業としての許可を与えないことが消費者の選択の自由を害することになるとは到底解されない。また、本件各申請が許可されなくても、供給地点七〇を超えない範囲内で従来どおり小規模導管供給事業を営むことは何ら禁止されるものではない。

6  以上のとおり、本件各申請は、法三七条の四第一項四号の定める許可の基準に適合しないものといわざるをえない。

四本件各処分の手続的適法性について

当裁判所も、本件各処分のうち控訴人末吉に対するものに同控訴人主張の手続的違法はないと判断する。その理由は、原判決理由四項に説示のとおりである。

五本件各処分の合憲性について

当裁判所も、本件各処分が憲法一四条一項及び二二条一項に違反するものではないと判断する。その理由は、原判決理由五項に説示のとおりである。なお、法三七条の四第一項四号を前記のように解釈しても、憲法二二条一項あるいは憲法一四条に反するものとは解されない。

六結論

以上のとおり、本件各処分に違法の点は認められないから、本件各処分の取消しを求める控訴人らの請求は失当である。

よって、原判決は正当であり、控訴人らの本件各控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官岩井俊 裁判官酒井満)

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